プリムス君とテディベア
みなさんこんにちは、プリムスです。
今日、無鉄砲(僕はもう、この人のことを"無鉄砲な友だち"と呼ぶのはやめる。何故なら、この表現を使い続ける以上、無鉄砲な友だちかそうでない友だちかのカテゴライズを延々としなけりゃいけなさそうだからだ。だからこの友だちの事はここでは無鉄砲と呼ぶ。)は自分の部屋から毛むくじゃらの物体を持ってきた。よく見るとその毛むくじゃらは黒、赤、黄色の三色のしましまのタスキをかけている。
「この毛むくじゃらは誰?ベルギーから来たの?」
と無鉄砲に尋ねると
「違うよ。この子はドイツから15年前に来たのよ」
だって。そうなんだよ、ベルギーとドイツは国旗が似てるんだよ🇧🇪🇩🇪フランスとオランダが似てるようにね🇫🇷🇳🇱まったく紛らわしい。
見てるだけでも暑苦しいのに、あろうことか無鉄砲はその毛むくじゃらと僕をそばに置いたんだ。やめてくれよ、7月なのに。
「暑苦しいよ。それに僕、ドイツ語苦手なんだよ。」
僕はビールなんだ。日本でビールは冷えたのを好まれるだろ?それなのに、何でこんな毛むくじゃらの隣に座らなきゃいけないんだ。そう抗議すると、何と無鉄砲は毛むくじゃらの肩を持ったんだ。
「この子はある大切なお祝いをするためにドイツから来てくれたの。それに毛むくじゃらなんて名前じゃないわ。この子はシュタイフって言うのよ。心配しなくても、この子は15年も日本に居るから日本語で話せるわよ」
僕はちょっと茫然自失の状態に陥ってしまった。だって僕が初めで無鉄砲の家に来た時は大切そうに箱から取り出して清潔なタオルで丁寧に拭いてくれて、あなたには我が家で一番眺めの良い場所を提供するわね、といつも賑やかになる明るいリビングのテーブルに連れて来てくれたのに。無鉄砲は15年も前から自分の部屋でこの毛むくじゃらを大切にしてきたんだ。しかも、僕は無鉄砲の部屋に入ったことなんかただの一度もない。そう思うと、その辺の本棚や椅子やカーテン、花瓶、写真立てといった無機質な物たちと僕は実は同じ扱いを受けているに過ぎない気がしてきて、なぜだかわからないけど、とても悲しくなってきた。そして、遠い祖国ベルギーが懐かしくなってきていた。
その時だった。
背後から、毛むくじゃらが僕に寄り添ってくれたんだ。びっくりしたけど、毛むくじゃらは僕にこう言った。
「この部屋は日当たりが良くていいね。それにいろんな人が来ていつも賑やかだ。僕はいつも滅多に灯りがつかない部屋に居るんだ。それに、あの部屋には無鉄砲しか入ってこない。無鉄砲はあの部屋では本を読むか、寝るしかしないんだよ。小さな子どもみたいに僕と一緒に寝ることなんてただの一度もしたこたがない。ただ、朝起きた時の最初のおはようと、1日が終わる時の最後のおやすみだけは僕に言ってくれる。嬉しいけど、ただそれだけだよ。それなのに、君が来た日から僕がとうてい行けないこの明るい部屋からは絶え間なく笑い声が聞こえたり、良いにおいが運ばれてくる。その時、僕は暗い部屋で一人ぼっちなんだよ。わかるかい?15年もそうなんだよ。」
僕は言葉を失ってしまった。毛むくじゃらはドイツ生まれの嫌な奴だと思ってた。そもそもベルギーとドイツって関係が微妙なんだよ。日本も隣国との関係は微妙なのと同じだよ。インドとパキスタン、イギリスとスペイン…どこも隣は喧しくてなかなか折り合えない存在なんだろうね。
だけど僕は今日、毛むくじゃらに親近感を抱いたんだ。はるか遠くのヨーロッパから日本にやってきて一生懸命溶け込もうとしてるんだよ。
全く。フランスといい、ドイツといい、
大国ぶってて鼻持ちならない時もあるけど、少なくとも僕は毛むくじゃらとは仲良くできそうだ。名前は呼ばないけどね、ドイツ語はやっぱり馴染めそうにないからね。
それでは、また :)