プリムス君と東京国立近代美術館②
みなさんこんにちは、プリムスです🇧🇪🍺
無鉄砲はあの日、ドイグの全ての作品群を見終えるのに2時間を要した。一枚一枚の絵の何かを確かめるようにじっと見つめていたんだ。
どうしてそんなに長い時間見ていたの?と聞くと終わりたくなかった、と無鉄砲は言ったんだ。つまりはずっとドイグの世界に居たかったようだ。これまでも凄く好きな画家や作品群に出会ったことあるみたい。だけど、これだけ感情を支配する作品群に会ったことはなかったんだって。だから無鉄砲は困惑していた。そしてそこから長い時間放心状態にも見えた。気持ちが切り替えられない、とも言っていたよ。
僕には正直よくわからなかった。だってたかだか絵じゃないか。絵が無鉄砲に一体何をしたのかも全くわからない。
しかし、何かに支配されると言う事は凄く怖いことでもあるんだ。僕の成分はみんなが知ってるようにアルコールというものだ。少し体に入れると心地良くてとても美味しい。リラックスにも大いに役立つ。しかし、一歩間違えると中毒性を発揮してしまう。それは僕が予期せぬことなんだ。そしてそうなってしまったら僕はもう歯止めになれやしないから、とても怖い。
僕はそんなこと、決して望まない。
僕は誰かを支配したいわけじゃない。僕は誰かに必要とされて、寄り添いたいだけなんだ。僕を飲んで幸せを感じ取って欲しいだけ。
僕はあの日の夕方、無鉄砲が思い詰めた表情で居たのは大きな駅で迷子になったせいではなくて、ドイグの世界から現実に戻るのに苦しんでいたからじゃなかったのか、と思った。
だけどそのあと、東京ビアパラダイスで僕たちや美しい料理の写真を撮り終える頃にはすっかりいつもの無鉄砲に戻っていた。
どうしてかって?それはきっと僕をひと口飲んだからだ。無鉄砲は少し僕を口に含んでゴールド色の流れる僕を見つめながら、とても安堵していたんだよ。
僕も無鉄砲がこちらの世界に戻ってきてくれて本当によかった、と思っている。
それでも、彼女は自宅ではカメラで撮ったドイグの数々の作品群の画像をパソコンに落とし込んで眺めているけどね。
でも、大丈夫。そばには僕が居るからね。
僕を飲みながらドイグの絵を見つめる無鉄砲は幸せそうだよ。バランスの取れた無鉄砲は誰にも、何者にも支配されておらずいつもの超マイペースな風情だから。僕がそう思っている時、無鉄砲と目があった。
「プリムスありがとう」
と笑顔で小さく呟いているように見えた。
それでは、またね :)