プリムス君の閑話休題~夜の暴動編~
みなさんこんにちは、プリムスです🇧🇪🍺
今から190年前の今日、僕の故郷ベルギーのブリッュセルでは夜の暴動が起こったんだ。
起こしたのはカソリック信者のある一団だった。彼らはその前の月に起こったパリの七月革命の出来事を知っていて、その空気がブリュッセルにも押し寄せてきてると確信していたと思う。もちろんそのことについて報道で知っている市民もたくさん居たんだ。
そしてそのきっかけになったのは、ブリュッセルのモネ劇場(ベルギー王立歌劇場)で「ポルティチの唖娘(おしむすめ)」の上演だった。このオペラはイタリアのナポリを舞台に魚の小売商人マサニエッロがスペイン総督に対して起こした一揆(マサニエッロの反乱)を題材にした作品で作曲はフランス人作曲家ダニエル・オペールによるものなんだ。話は反乱によるショックで口がきけなくなってしまったマサニエッロの妹フェネッラを中心に展開していく非常に愛国心を煽る内容で、テノール歌手のアドルフ・ヌーリーの”Amour sacre de la patrie"(祖国への神聖なる愛)の二重唱が市民、カソリック教徒を刺激して公演が終了したあとに感化された市民が愛国的な言葉を口々に言いながら政府の建物を占領したんだ。
ではなぜカソリック信者や市民は政府に対してそのような行動を起こしたんだろうか。
それは当時のベルギーを実質的に支配していたオランダに対する宗教の違い(オランダはプロテスタント)や仏語を話すワロン人への扱いなどに不満を持っていたからなんだ。当時は今よりもずっとずっと人々の心や生活を宗教が占めていたんだよね。
そのほか産業、経済においてもオランダが実質支配していてベルギーは当時十分な恩恵に預かることができずなかなか発展できなかった。当時のウィレム一世はオランダに住んでいたし、下院議員もオランダ人が圧倒的に多数派だった。だからベルギーの人々は自分たちの意見が十分に反映されないことに不満を募らせていったんだ。これは言わば仏語を話す上流、もしくは中流階級のワロン人のための革命だったんだよ。
そしてその約一か月後に”血の市街戦”と呼ばれる戦いで王立軍を破って9月26日にブリュッセルで臨時政府が発足、翌月の10月4日に独立宣言がなされた。
しかしその後もベルギーは大国に翻弄されたり、民族間での意識差などでいがみあったり。悲しいけどそれは今も続いてる。フランスやドイツなどの大国に挟まれていることもあって地政学的にも国の運営が難しいのかもしない。だけど小国ゆえに交渉上手だったり友好関係を構築することが得意なのはベルギー人の特性でもあるんだよ。
では、今日はここまで。続きはまた今度。
みなさん、またね : )
プリムス君とフジロックフェスティバル
みなさんこんにちは、プリムスです🇧🇪🍺
今年はコロナの影響で世界中の音楽イベントが中止になってるんだって。大変残念なことだけど、ベルギービールウィークエンドも今年は中止に追い込まれたからね。僕たちが一年で一番楽しみにしているイベントだっただけにとっても残念だったよ。
それで、今日はフジロックの日なんだけど今年はYouTubeで過去の映像を流すらしくて。
こういうのがやたらと好きな無鉄砲はテレビで見るためにその他の用事を早めに片付けて、椅子の上で何故か三角座りしていたよ。まるでドラえもん見るために早く宿題片付ける子どもだね、少なくとも僕にはそう見えたよ。
唯一子どもと違うのは手に僕を握りしめてるところだね。無鉄砲曰く、音楽にはお酒が時に必要らしいよ。特にこういう屋外型の時はビールが最適らしいよ。まぁ今日は家なんだけど。
確かに僕を飲みながら映像を眺める無鉄砲はとても幸せそうだよ。今日は日本のそこかしこで同じような人が居るに違いない。
来年はベルギービールウィークエンドも、フジロックも開催されたらいいよね。好きな音楽を聴きながら美味しく僕を飲んでくれる誰かと来年は出会いたいな:)
それでは、また
プリムス君と過酷な日本の夏
みなさんこんにちは、プリムスです🇧🇪🍺
僕は最近暑さにかなりやられている。正直生きた心地がしないほどだよ。無鉄砲が気を利かせて冷蔵庫に入れてくれた時はまだいいよ。だけど彼女もいつもいつも僕のことを考えているとは限らなくて、朝出掛ける時にそのまま放置されることもある。しかも窓際で💧
もうそうなると。一日中陽射しを浴びることになる。太陽が恋しいヨーロッパならまだしも、ここは太陽がむしろ疎ましく思える東の果ての国だよ。しかもエアコンは切られてしまうんだ。正しい節電なんだろうけど、僕にはただの修行でしかない。
しかし夕方に帰ってくる無鉄砲は一日中修行をしていた僕よりも時に疲れてることがある。そうなるともう何も食べたくないみたいだけど、点滴生活(というのを経験したらしい)にはなりたくないから、と取り敢えず毎日野菜だけは食べるようにしてる。最近の無鉄砲はどうしたら食欲が出るのか、悩んでるらしかった。
ってここまで書いたらか弱くて可哀想と思うだろう?僕も最初は心配したんだよ、本当に。
しかし、僕を飲みながら無鉄砲はチョコレートをよく食べている。一番好きなチョコレートはこれらしいよ。
信じられない❗️ベルギーはチョコレートの国だと言っても過言ではないのに、スイスのチョコレートを押すんだよ❗️あり得ない‼️どうやらまだこのチョコレートが日本に輸入されてなかった頃にお土産で貰ってやみつきになったんだって。凄く古いお話だね(多分)。
最近このリンツ社が日本で攻勢を仕掛けてるらしくて、あちこちのデパートで見かけるらしい。
「時代がわたしに追いついたわ」
ってニタニタ笑ってる無鉄砲を例えサラダしか食べられない状態であったとしても、僕は全く同情できない。
僕の修行生活はまだ暫く続きそうだよ。
それでは、またね。
プリムスくんと前菜くんの調べ
みなさんこんにちは、プリムスです🇧🇪🍺
今日は無鉄砲の友だちが遊びにきていた。と言っても無鉄砲はなかなか帰ってこなくて、その友だちと僕は気まずい2時間を共にしたんだ。実は僕は極々親しい人としか喋ることができないんだ。だから、その友だちは時々僕に一瞥をくれるだけで、まさか喋るとは思ってないからずっと静かにしていた。
そうしてやがて無鉄砲が帰ってきた。
友だちは無鉄砲に色んなものを渡している。無鉄砲はプレゼントが大好きだから、とてもニコニコしている。本当に現金なやつだ。
どうやら、友だちは薫製作りにハマっているらしかった。みんなは薫製と聞くと何を想像するかな?ベーコンとかサーモンとかせいぜいチーズだよね。ところがその友だちが薫製にして持ってきたのはフルーツだった。オレンジ、りんご、プラム…無鉄砲は最初は訝しげに見ていたけど、ひと口食べて感動すらしていたよ。とっても美味しいんだって。しかもチーズとよく合うらしくて。そしてそこには生ハムも居た。
これだけ見てると、僕に出番はないんじゃないかと少し気遅れしてしまう。僕はずっと下を見つめていた。
しかしその時、無鉄砲は
「こういう時こそ君なんだよ」
と言って俯く僕をすくい上げたんだ。
そう言えば僕は無鉄砲の家に来てから、ほかのお酒を見たことがない。なぜだろう?もう少ししたら彼女はぼくに教えてくれるかな。
僕は無鉄砲とセンスのいい薫製ちゃんの仲がこれからも末長く続けばいいなって心から思ったよ。
それでは、また:)
プリムス君とフランス料理
みなさんこんにちは、プリムスです🇧🇪🍺
その日僕は暑くてたまらなかったので、冷蔵庫に入れてもらっていた。隣には牛乳パックが居て、その反対隣には豆乳パック、この2人の仲が悪いのかしらないけど、僕は間に挟まれて少し居心地が悪かったよ。暑いからだろうね、冷蔵庫の扉が何度も開くんだよ。その度に部屋のあまり涼しくない空気が入り込んでくる。その度にフレッシュじゃないと困るお魚やお肉が顔をしかめるんだよ。僕は…まぁ瓶だからね。
そこにスライスされたラディッシュが小さなボウルの中で水にさらされた状態で入ってきた。瑞々しくなったから、やたら元気そうで両隣に気を遣ってる僕は少しその元気さが暑苦しかった。せっかく冷蔵庫に居るのに。
そしてこのシャキッとしたラディッシュが無鉄砲をも苦しめることになったみたいだったよ。
無鉄砲はフランス大使館のHPを見ていた。渡航したいんだろうね。住んでたのかな?ってくらいパリの通りや公園の名前に詳しいんだよ。無鉄砲は10代の頃は本気でパリジェンヌになりたかったらしいよ…う、うん、夢は誰でも見るからね💦
そしてこの日はそのHPに載ってたお料理を作ってたみたいだ。フレッシュなサーモンを少し細かく切ってチャービルとオリーブオイル、塩こしょう、ニンニクおろしと混ぜたものをセルクルっていうケーキの型に入れて、その上にタルタルソースをのせて、そしてその上に一枚ずつ丁寧にスライスしたラディッシュを…ってところで無鉄砲が顔をしかめていた。
ラディッシュが元気すぎて並べにくいらしくて。あー塩水でしんなりさせておくべきだったと言ってたよ。どうも写真だけ見て作ったみたいだよ。やっぱりこの人は無鉄砲だよ。
あとはこの前から我が家にいるまぁるいズッキーニをグラタン風にしてオーブンで焼いてた。これもまたレシピなしで作ってたよ。
何でちゃんと調べないの?って聞いたら暑くて字を読む気になれないの!冷蔵庫に入って涼んでるプリムスにはわからないわよ!と少しおかんむりだった。嫌だね、女の子はいつでも感情的だ。
まぁ感情的だからラテンな空気ただようパリジェンヌになりたかったのかもね。
さてさて、出来上がったみたいだよ。
今日はフランス風だね、
Bon appétit💕
プリムス君と東京国立近代美術館②
みなさんこんにちは、プリムスです🇧🇪🍺
無鉄砲はあの日、ドイグの全ての作品群を見終えるのに2時間を要した。一枚一枚の絵の何かを確かめるようにじっと見つめていたんだ。
どうしてそんなに長い時間見ていたの?と聞くと終わりたくなかった、と無鉄砲は言ったんだ。つまりはずっとドイグの世界に居たかったようだ。これまでも凄く好きな画家や作品群に出会ったことあるみたい。だけど、これだけ感情を支配する作品群に会ったことはなかったんだって。だから無鉄砲は困惑していた。そしてそこから長い時間放心状態にも見えた。気持ちが切り替えられない、とも言っていたよ。
僕には正直よくわからなかった。だってたかだか絵じゃないか。絵が無鉄砲に一体何をしたのかも全くわからない。
しかし、何かに支配されると言う事は凄く怖いことでもあるんだ。僕の成分はみんなが知ってるようにアルコールというものだ。少し体に入れると心地良くてとても美味しい。リラックスにも大いに役立つ。しかし、一歩間違えると中毒性を発揮してしまう。それは僕が予期せぬことなんだ。そしてそうなってしまったら僕はもう歯止めになれやしないから、とても怖い。
僕はそんなこと、決して望まない。
僕は誰かを支配したいわけじゃない。僕は誰かに必要とされて、寄り添いたいだけなんだ。僕を飲んで幸せを感じ取って欲しいだけ。
僕はあの日の夕方、無鉄砲が思い詰めた表情で居たのは大きな駅で迷子になったせいではなくて、ドイグの世界から現実に戻るのに苦しんでいたからじゃなかったのか、と思った。
だけどそのあと、東京ビアパラダイスで僕たちや美しい料理の写真を撮り終える頃にはすっかりいつもの無鉄砲に戻っていた。
どうしてかって?それはきっと僕をひと口飲んだからだ。無鉄砲は少し僕を口に含んでゴールド色の流れる僕を見つめながら、とても安堵していたんだよ。
僕も無鉄砲がこちらの世界に戻ってきてくれて本当によかった、と思っている。
それでも、彼女は自宅ではカメラで撮ったドイグの数々の作品群の画像をパソコンに落とし込んで眺めているけどね。
でも、大丈夫。そばには僕が居るからね。
僕を飲みながらドイグの絵を見つめる無鉄砲は幸せそうだよ。バランスの取れた無鉄砲は誰にも、何者にも支配されておらずいつもの超マイペースな風情だから。僕がそう思っている時、無鉄砲と目があった。
「プリムスありがとう」
と笑顔で小さく呟いているように見えた。
それでは、またね :)
プリムス君と東京国立近代美術館
みなさんこんにちは、プリムスです🇧🇪🍺
先日、無鉄砲は東京ビアパラダイスに行く前にどうしても行きたいんだといって東京国立近代美術館に足を運んだ。その時、殆どの荷物は預けたのに何故か僕は一緒に行くことに。プリムスも見た方がいいよ、彼の絵だけはねって。僕が見てわかる絵なんだろうか…
地下鉄竹橋駅を出て数分で「ピーター・ドイグ展」と書いてるそこにたどり着いた。絶対に来るって決めてたんだろうね、無鉄砲は事前にチケットを買ってたからスムーズに入場したよ。
そして、入ってすぐの作品の前で長い時間立ち尽くしていた。
水面に映る風景はシンメトリーのようでいて、実はそうではない。夜の風景だけど、空よりも水面の方が暗い。この水面と夜空はどちらが上でどちらか下かわからない。真ん中のボートが辛うじて上下の位置を知らせてくれる。
そしてこのボートは…13日の金曜日に出てくるあのボートだと連想させる事で一気にこの絵が不穏なものへと変貌を遂げていくんだ。
実はピーター・ドイグの作品群はこのような手法をしばしば用いるんだって。
無鉄砲は出口の見えないドイグの世界に足を踏み入れてしまったようにも僕には見えた。
大丈夫なのかな…
(続く)